市民と科学者の内部被曝問題研究会(略称:内部被曝問題研) Association for Citizens and Scientists Concerned about Internal Radiation Exposures (ACSIR)

内部被曝に重点を置いた放射線被曝の研究を、市民と科学者が協力しておこなうために、市民と科学者の内部被曝問題研究会を組織して活動を行うことを呼びかけます。

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【お知らせ】

双葉町議会の井戸川町長不信任案について<意見書>

(市民と科学者の内部被曝問題研究会)

 東京電力の福島第一原子力発電所5、6号機が立地する双葉町の井戸川克隆町長は、原発事故の放射能を避けて埼玉に町ごと避難させした。

 これに反対した町議会は不信任案を提出。町長は議会を解散させました

(2012年12月26日)。ACSIRは町民の命と健康を守る町長の決断に敬意を払い翌12月27日、町議会の佐々木清一議長に意見書を送付しました。

 

ACSIR N ––4

福島県双葉町議会 議長 佐々木清一殿

(写し) 福島県双葉町 井戸川克隆町長殿

 

   双葉町議会の井戸川克隆町長不信任案について

 

20121227

市民と科学者の内部被曝問題研究会

理事長 沢田昭二 (物理学 名古屋大学名誉教授) 

 

 私たち「市民と科学者の内部被曝問題研究会」は、全国に約600名余の会員を擁する組織で、私は会員を代表する理事長の沢田昭二と申します。

双葉町民の皆さんの苦難は計り知れなく、お察しするに余りあります。町民の皆さんが1人残らず健康を守り切り、この難局を一致団結して乗り切ることをただただ願うものです。ここに貴職が果たす大きな役割は換え難く重要なものであり、ぜひ町民全員のいのちを守る町政のかじ取りしていただきたいと考え、次のようなお願いと意見を申し上げます。

 

 貴議会の町長不信任案は単に一町議会の問題ではなく、放射能汚染という視点からは日本全体の問題だと認識しております。

 新聞報道によりますと、不信任案の理由は、双葉町が放射性物質の中間貯蔵施設の建設候補地の調査対象とされていることに反対する井戸川町長と、町議会が対立し、不信任決議案では「町長は町民の声を聞く努力をせず、町民との考え方に乖離がある」ことが理由とされています(東京新聞20121220日夕刊等)。

 町議会の町長不信任案の理由が「町民との考え方の乖離」とありましたので、双葉町公式ホームページに掲載されている現在までの種々の会議録を拝見いたしました。また、井戸川町長が政府と環境省に発した質問状とその回答も拝見し、町民の命と健康を重視する町長のご努力を知り敬意を覚えました。

 

双葉町の問題は放射線汚染がれき焼却を受け入れているその他の地方自治体と住民の問題でもあり、双葉町の解決方法如何によっては、日本全域の放射能汚染問題に大きな影響を及ぼすのではないかと危惧しております。従って町議会の町長不信任案は、町民の命と健康を優先する町長の取り組みに対する不信任案と受け取られ、双葉町議会は町民の命と健康を軽視して、政府と福島県庁による国民・住民の命の軽視政策に賛同すると受け取られることは避けられないと考えます。

 双葉町議会におかれましては、井戸川町長不信任案の撤回をお願い申し上げる所以でございます。このことによって、町民の命と健康を優先する姿勢を見せていただき、日本全域に対して、住民を守る議員集団という模範をお示しいただくようお願い申し上げます。

 

私どもが双葉町公式ホームページから理解した重要点を少しく申し述べさせていただきます。

 

 双葉町は20127月から現在まで6回にわたり、「双葉町復興町つくり委員会」を開催し、町民へのアンケート調査を行って、国に対する質問状を発信し続けるなど、井戸川町長は町民の命と健康を守りながら、どのように町の再建が可能かを検討し続けていらっしゃる様子が、第三者にもよくわかります。特に町民7,000人のうち、半数の方々が北海道から沖縄まで全国に避難され、残りの半数の方々も福島県全域に避難するという、「町民の声を聞く」には非常に困難な状況のもとでアンケート調査を実施なさっておられる現実からみまして、町議会の町長不信任決議が適当だとは考えられません。

 

 第1回の20121月のアンケート調査結果で特に印象的なのは、中高校生が50人、19歳から29歳までが75人も回答なさっていることです。放射能が乳幼児・子ども・若い人に深刻な影響をもたらすと認識している当会としましては、これら未来を担う人たちの意見に注目しました。

 町ぐるみの集団移転案については、中学生44.4%賛成、27.8%がわからない、高校生37.9%が賛成で37.9%がわからない、また2028%賛成で、36%わからないとあります。

集団移転に際しての最重要課題では、全体回答でも、中高生・20代でも一位は線量低下・除染について、「長期(生涯)にわたって健康管理の充実」や「除染の難しさの指摘と不安」と答えています。

 

  第4回の「7000人の復興会議」の町民意見集約(第3回復興まちづくり委員会20121016日公開)では、1168件の町民意見のうち、31件が放射線被ばくの影響が心配で、53件は除染ができなければ帰れない、中間貯蔵施設には反対となっております。

 

  第4回「双葉町復興まちづくり委員会」(20121112日)公開資料では、「7000人の復興会議」(8/19から10/21)の「帰還に向けた条件に関する町民の意見」では、

    原発の安全性について「原発の処理が安全に進むかどうか信用できないから帰れない」や「福島原発4号機の安全性に疑問がある」。

  放射線の低減については「20 mSv/年以下は安全という話は信じられない。福島県に帰ってはいけないと思っている」、「放射能の影響が心配で帰還する気にならない」、また「元のレベルに戻してもらわなければ帰れない」。

    除染に関する意見では「除染をしっかりしてほしい」、「除染では汚染をすべて消すことはできない」などです。

 

 これら町民の声を受けて、井戸川町長は2012105日に当時の復興大臣平野達男氏に質問状を送っています。「双葉町民の帰還完了」の国のビジョンや「居住環境の空間放射線量が事故以前の水準に戻れる日」、「町民の帰還と中間貯蔵施設の共存を想定しているのか」、「核燃料取り出しも終了していない現状で、空間線量だけを判断基準として帰れる訳がないがどのように考えているのか」等です。

 

これらの質問への平野大臣の回答(1026日)です。

     帰還のためには、インフラの復旧、除染の進捗状況で避難指示解除することが前提。

     除染効果の予想では20153月に50 mSv/年の地区は17 mSv/年に、20 mSv/年の地区は

8 mSv/年に減少するが、事故前の水準になるには長期間要するため、明示できない。

 中間貯蔵施設と帰還については、双葉郡を含め福島県全体の除染を進めるために中間貯蔵施設設置は必要不可欠で、中間貯蔵施設は町の復興計画に資する。

    廃炉と生活環境の関係では1016日開催の復興推進会議で、廃炉に向けた措置が周辺の生活環境に与える影響についてリスク評価を行うことが必要である。

 

 上記のような責任感に乏しく多くが不明瞭な回答です。中間貯蔵施設設置に走り、同時に避難区域解除をして帰還させて、中間貯蔵施設周辺に住まわせようとする政府に対し、町民の命と健康を守る立場の井戸川町長は、これに加えて1116日に環境省水・大気環境局長小林正明氏に質問状を出されました。これに対する同月21日付けの回答が不十分だったため、十分な回答を要望し、これについて1217日付けの再回答が出されています。

「双葉町が中間貯蔵施設を受け入れなければならない理由」としては、1116日回答の「高濃度の除去土壌が大量に発生する地域に近い、線量の高い地域で発生したものを線量の低い地域に運び込むことは困難、主要幹線道路(国道6号線、常磐道)へのアクセスが容易」から1217日回答では「中間貯蔵施設を設置する土地には正当な補償を行う、中間貯蔵施設は除染を推進し、福島県全体の復旧・復興に必要で、双葉地方3町に設置検討をお願いする経緯について議事録を残す会議は開催していない、また追加被曝線量が年間100 mSvを超す地域がまとまって存在すること。

「誰が事故の責任を取るのか」については、1116日回答で「東京電力が第一義的責任者、国も、原子力政策を推進してきたことに伴う社会的責任を負っている。国の責任で対策を講じ、費用はすべて東京電力に求償する」から、1217日回答では「放射性物質汚染対処特措法の基本方針(平成231111日閣議決定)に東京電力が一義的責任を負っていると明記。

「最終処分場は同時進行で実施すること」では、1116日回答「濃度が高く、量が膨大であることから、最終処分方法について現時点で明らかにしがたい」、「中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分を完了する旨を、福島復興再生基本方針(閣議決定)で明記するとともに、この担保を更に強めるため、法制化することとしています」が、1217日回答では「中間貯蔵施設に併設する研究施設等の付帯施設に係る在り方を検討するための費用を、平成25年度予算概算要求に盛り込んでいるところです」。

「双葉町を人の住めない町にできない」では、1116日回答の「中間貯蔵施設の整備に当たっては、徹底的な除染を行った上で工事を行うこととなりますので、施設敷地においては、むしろ、放射線量が下がることになると考えます」、「中間貯蔵施設の設置場所周辺への影響をできる限り少なくしてまいりますので、ご理解いただきますようお願いします」から、1217日回答では「中間貯蔵施設には、この線量限度「外側で実効線量が1 mSv/yを超えないようにする」の適用はないものの、環境省が行った試算によれば、4Bq/kgの除去土壌等を貯蔵したときに、当該除去土壌等から受ける線量は、30 cmの覆土を行うことで、貯蔵場所の直上においても0.2 mSv/y程度まで低減されるという結果となっています」、「原子力施設について、敷地境界からの離隔距離に関する基準はありませんが、中間貯蔵施設の安全確保は整理していく予定です」とあります。

 

結語

 井戸川町長の復興大臣平野氏(当時)と環境省への質問状への答えは、政府と環境省が無策であり、ビジョンもなく、ただ中間貯蔵施設建設を押しつけ、線量限度の適用がない施設だとして、またその周辺に住民を帰還させて、国際原子力機関IAEAの担当者でさえ効果がないとする「除染」だけしか対策を上げていないという事実が明らかになりました。大きな功績というべきでしょうか。一方、住民へのアンケート調査の質問と回答からは、放射能問題と健康への影響を心配している声は明らかです。

 日本全域の住民にとっても、これが政府・環境省の実態だという認識と、危機感を新たにさせられたという意味で、井戸川町長のご努力は称讃に値します。

 この町長にどのような理由で不信任決議をなさるのか、双葉町議会は日本全域の住民に対しても明確にする責任があると思います。自民党総裁安倍氏は原発の再稼働および新規建設まで公言しており、今後、大きな地震の予想が発表されたばかりの時に、事故防止策さえない現状で、第二第三の福島原発事故が起こる可能性があること、事故後の処理案がないこと、福島原発からは2年近くたつ今でも膨大な量の放射線が放出され続け、双葉町民が心配されていますように、4号機が次の地震で崩壊する可能性があり、そうなれば、日本全土どころか韓国・中国まで大きな汚染に見舞われると世界の専門家が考えている等々を考えますと、双葉町議会の行動は日本全域および世界にまで影響を及ぼすでしょう。

 このような理由から、町長の不信任決議の撤回され、まずは町民の命と健康を優先するご判断をなされることを心からお願いしたいと存じます。

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