市民と科学者の内部被曝問題研究会(略称:内部被曝問題研) Association for Citizens and Scientists Concerned about Internal Radiation Exposures (ACSIR)

内部被曝に重点を置いた放射線被曝の研究を、市民と科学者が協力しておこなうために、市民と科学者の内部被曝問題研究会を組織して活動を行うことを呼びかけます。

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放影研RERFとProf.Dr. Schmitz-Feuerhake、Dr. Pflugbeil及びACSIRとの会談

-第一報 概要*-

市民と科学者の内部被曝問題研究会

 当日のボイスレコーダー起こし等による記録

2012730

放影研RERFとProf.Dr. Schmitz-Feuerhake、Dr. Pflugbeil及びACSIRとの会談 

-第一報 概要*

 *専門的内容については的確にフォローできないため、

      沢田理事長が別途第二報を提出予定

*2会談の会話体のやり取りの一部収録(守田)5/12頁

 (文責 吉木 健)

日時:2012年6月26日 10:00~12:00

出席者:RERF-寺本隆信/業務執行理事、小笹晃太郎/疫学部*長

             ACSIRProf.Dr.Inge Schmitz-FeuerhakeDr. Sebastian Pflugbeil 沢田昭二理事長、高橋博子副理事長、守田敏也広報委員長、
                            吉木健国際委員長、Dr. Ulrike Wöhr (広島市立大教授/通訳)、三崎和志(岐阜大地域科学部准教授/通訳)

             * 寿命調査集団、胎内被爆者集団、被爆二世(F1)集団の長期追跡調査で、放射線被曝の健康への影響の疫学調査を実施。

 [発言:寺島  小笹  インゲ セバスチアン 沢田 高橋 守田 吉木]

  発言は内容の要旨で、聞き取りが困難な発言や特に記録の必要がない発言は除外した。

   特に断らない限り英語。()は日本語で発言。

   会談に先立ち、ヴィデオの撮影を要望したが断られた。代わりに音声録音の許可を申し出て同意を得た。

    この会談内容はサウンドレコーダーの記録に基づいている(守田及び吉木)。

  *:参考に入れた注。

 

RERFとの会談風景(撮影/守田)左から沢田,寺本,小笹,インゲ,三崎,セバスチアン,Wöhr,(隠れて吉木,守田), 高橋

 

 

 

 

 

 会談は会話体ですべての発言を記録することが理想的であるが、小型のレコーダーの性能の限界があり、また会場の設置場所の適否、さらには専門的な発言内容の問題もあるので中心的テーマごとの要点を記すこととした。

   会談はRERFの寺本氏の司会で始められ、ASCIRの希望により基本は英語とし、必要に応じて日本語等も使用。ドイツ語も通訳を通して使用された。

 1.    自己紹介

寺本氏の発案で参加者全員の自己紹介が行われた。通訳を除く発言順。

要旨を記す。

寺本理事/科学以外の業務執行理事で広報、倫理調査等担当。7年間在籍。広島生まれ。

小笹博士/疫学部に4年前に就任。

Prof.Dr.インゲ・シュミッツ-フォイエルハーケ(以下インゲ)/物理学者で1974年に  ヒロシマの研究所(当時ABCCAtomic Bomb Casualty Commission=原爆傷害調査委員会)を訪問。長年にわたり研究している。

Dr.セバスチアン・プフルークバイル(以下セバスチアン)/(ドイツ)放射線防護協会の会員(会長)。数年前からRERFの研究もしている。

吉木/今回の会談をさせていただいたことに感謝し、ACSIRの会員に会談内容を伝えたい。

高橋/広島市立大 広島平和研究所の講師。アメリカの歴史を専攻。特に原爆関係の公文書を研究。特にABCCRERFに関心が深い。

守田/フリー・ジャーナリストでACSIRの常任理事。

沢田/広島生まれ。中学生時に広島原爆で被爆。母は崩壊家屋に挟まれ動けず、生き残るためここを離れよと命じられた経験をした。後に素粒子物理学を専攻し原爆の放射性降下物の影響を明らかにした。

  注 なお放影研の小笹博士は、同研究所による「原爆被爆者の死亡率に関する研究第14 19502003 年:がんおよびがん以外の疾患の概要」の筆頭執筆者でもある。

  

2.    原爆による被曝を巡って

  寺本氏が小笹博士に最近の研究の紹介を要請したが、時間への配慮から質問などに答えることとなった。

  インゲ博士が口火を切って原爆の被爆について見解を述べ、沢田理事長が(長崎を含む)自らの研究成果(脱毛と下痢等)を述べた。

  以下は会談の主要の一部で、詳細は別途報告される沢田理事長の第二報参照。

 寺本-会談に移りましょう。小笹博士に最新の研究を紹介してください。

小笹-時間をかけて説明するより質問などをお聞きした方が良いでしょう。

インゲ-放射線防護協会の被験者について職業上の被曝の問題に直面している。あなた方のLSS(寿命調査)http://www.rerf.or.jp/glossary/lss.htm についてコホート*が世界的に参照とされています。(*特定の地域や集団に属する人々を対象に、長期間にわたってその人々の健康状態と生活習慣や環境の状態など様々な要因との関係の調査)

残念ながらもし何らかのことが見出されているのでなければ、被験者ははっきりしない疾病のことを話しています。これについては議論するつもりはありませんが、職業上の分野ではnon cancer(非ガン)影響が多く観察されています。ICRPの最近の勧告では0.5Sv以下ではnon cancerは観察されないとしています。私が尋ねたいのは、これはこれまでに確認されたのかどうかです。私の見るかぎり、直線閾値なし線量モデル*と矛盾しているのではないか。ICRPはかようなことについての懸念はないとしています。

*linear non-threshold model LNT-放射線のリスクが線量に比例するというモデルで線量が小さいとリスクは比例して小さくなる。

小笹LNTについてはガンだけにかかわることです。non cancer(非ガン)についは大変複雑でかなり弱い*。さらに詳細な分析が必要です。*LNT

 高橋 1952年・53年に、ABCCM-81という残留放射線に関する調査に取組んでいたことは、私の著書(『新訂増補版 封印されたヒロシマ・ナガサキ』凱風社、2012年)にも掲載したウッドベリー博士の文書からも明らかである。残留放射線、入市被爆者たちの調査をしようとしていたのに、何故打ち切ったのかも明らかにしてほしい。

 3.RERFのデータの開示について

  被爆者の生存期間はこれからそう長くはない。RERFのデータは人類にとって重要です。どうか低線量の影響の研究をして出版して戴きたい(沢田)。

 RERF ABCCで集積されたデータは広島と長崎の被爆者と人類に属するものです。それらはRERFに占有さるものでなく、広い範囲の科学者と共有することをお願いしたい(高橋)。

  これらのリクエストに対してRERFRERFが全てをカバーしているわけではないがHPに開示してきたと回答。

    HPhttp://www.rerf.or.jp/programs/index.html

   最新の学術論文:http://www.rerf.or.jp/library/archives/index.html

  学術論文などの成果だけではなく、RERFの所有する生のデータの開示が必要だ。最近「黒い雨」に関する事実が明らかにされているが、これも長らく開示してこなかったではないか(高橋)。インゲ博士もさらなるデータの開示を求めており、「当初から開示しておれば、研究の内容もゆたかになり、被曝による被害を少なくできたかもしれない。」

   私の研究もRERFのデータに依存している(沢田)。

   データの開示については専門家が不十分だといっている(吉木)。RERFはデータはRERFの所有と考えているかもしれないが、これは被爆者のものであり、ひいては人類のものではないか。どう考えているのか。

   きちんと残っていないデータもある。カードとしてのデータはある(小笹博士)。

   生のデータを開示していただきたい。国の裁判では出せているが(沢田)

   同意があれば出せる。だが一般的には出せぬ。個人の個別のデータは出せない(RERF)。

 個別であっても匿名であれば出せるはず(吉木)⇒ ノーコメント

   研究者には個別のデータをよろしくお願いしたい(沢田、インゲ博士)。



 4.    低線量被曝、内部被曝について

   戴いた放影研のパンフレット「分かりやすい放射線と健康の科学」のp3にγ線、α線やβ線の性質の説明があるが、内部被曝についてはパンフ全体にも触れていない。γ線だけ怖いと思われているが、内部被曝ではα線やβ線が重要なので配慮されたい(守田)。

 (注)戴いた放影研の要覧には「有意な放射縁量」とはとの質問に対する答えでは次のように記されている(p47)(吉木)。

『ガンのリスクの考察では5mGy(グレイ)以上の被曝者に焦点を置いている。これ以下の低線量被爆者のガンやその他の疾患の過剰リスクは認められていない。この値は一般人が受ける年間の放射線量(0.1mSv~1mSV)より高い。』

要覧には放射線の早期影響や後影響、遺伝的影響、放射線量、また寿命調査(LSS)などの調査集団の研究などが紹介されているが、低線量の被曝、また内部被曝は研究対象に入っていない。

   放影研は寿命調査集団(LSS)の00.005Svの初期放射線被ばく線量区分のがんなどの晩発性障害の死亡率、あるいは発症率を実質上被ばくしていない比較対照群(コントロール)として放射線によるリスクの研究をしている。初期放射線被ばく0.005Sv以下は広島では爆心地から2,700メートル以遠の遠距離で、ガンマ線しか到達していないので0.005Sv=5m Gyとしてよい。5mGy以上との説明は実質的に比較対照群にしていることの表明であるが、初期放射線のみで放射性降下物の影響を無視した研究であるので低線量被曝者とは言えない(沢田)

 

 5.    今後のRERF

 今回がRERFとの会談の最初だが、今後継続して戴きたいとの要望(吉木)に対して受け入れるとのことであった(寺本理事)。

  また小笹博士からは低線量の曝露のついては困難を伴うがreformが必要との発言があった。REDFが自ら変わっていくのは困難だろうが、われわれとしては、こうした発言も念頭にいつつ、RERFの今後を見ていく必要がある。

   会談は約一時間半に及びその後放影研内寺本理事に案内していただき、全員で放影研の前で記念撮影した。

 

 

   撮影:放影研職員

 

 

 

 


 

 

守田による会話体のやり取りの一部(以下)

         放影研でのやりとりから 20120626

 沢田 ここからは日本語でやりましょう。放影研による記者への発表で残留放射線の影響については、なかなか数値化するのが難しいと言われていましたよね。でも僕は数値化したのです。ABCCのデータに基づいて、数値化するのに成功しだわけです。それは放影研のStramさんや水野さんの研究にも基づいているし、ABCCが調べたデータにも基づいているわけです。

   それから下痢については、広島の医師の於保源作さんという方、ご存知ですね。彼が調べたデータ、それを用いたのですが、本当は放影研のデータを使いたかったのです。それを使うにはどういうふうにしたらいいのですか。何か方法がありますでしょうか。

 放影研自身が1950年代に調べたデータの中で、脱毛だけはかなり詳しく調べられていて、他のことは詳しく調べられてないのではないかという気がしています。発症率が距離と共にどのように変わっているかなどです。そういうまとめ方はされていないのですか?そのところがすごく気になるのですけれども。

小笹 基本的にはT65DDS86の初期放射線線量ですね。あれを調べているところで使っていると思います。ただそこで、何が最も線量と関係があるのかというあたりで、落ちているものとか、残っているものとかあるかもしれませんが、ちょっと私もそこまで記憶はないですね。

沢田 一番、僕が欲しいものについてですが、T65DDS86で行った区分ごとのデータにLSSはなっていますよね。今、DS02が基準で、区分されているわけですけれども、本当はその区分する前の距離ごとのデータ、まあ変換すれば、初期放射線の線量は分かるから、変換すれば距離は分かりますよね。

小笹 それは遮蔽の影響がかなり強いですから、距離とはかなり変わってきます。

沢田 それから遠距離の方は、0.005以下と0の場合が全部まとめられているから、いろいろな距離の人が全部、まとまっているのですよね。

小笹 それはそうです。はい。3キロから10キロまでの場合がありますから。

沢田 ですよね。広島は約6キロまでですか?10キロまでありますか?

小笹 定義としては10キロまでです。

沢田 はい。だけど当時の広島市の地域が10キロまでなくて、6キロぐらいで切れていますから、僕は6キロにしているのですけれども。だからそういうデータが調べられてまとまっていると使えるわけです。インゲさんも、発表されたデータに基づいて日本人平均と較べるということで、コホート、すごく被曝しているということを見出されているわけですよね。

 だからデータがそういう被曝距離という形で発表されていれば、降下物の影響の研究に役立ちます。僕が知っているのは渡辺智之さんらの論文で、ご存知ですか?彼は名古屋にいらっしゃるから、いろいろと議論ができるのですけれども、放影研のLSSのがん死亡率を岡山県民、広島県民と比較され、最近では日本人平均と、年齢ごとで区分した研究をやられていますよね。そういうふうに活用できるわけですけど、急性症状の下痢については、どこにも発表されてないですよね。

小笹 まあ、そういう形で出ているかどうかは分かりません。

沢田 だからそういうのを利用するにはどうしたらいいか。何か方法はありますか?

小笹 公刊されているTR(研究報告)については、請求していただければ出すことはできます。

沢田 公刊されているものはね。でも公刊されていない、だからここで調べられてないものをどう利用するかというと、だからそれは難しいのですね?

小笹 それはですねえ。今、おっしゃったデータについてはきちんと残ってないのです。

沢田 残ってない?

高橋 1950年代の初期の資料とかが残ってないということですか?

沢田 でも調査カードがありますよね。これはちゃんと残ってますよね。それを見れば分かるわけですね・・・。

小笹 もしそれをやるとなるともう一度入力するというかそういう作業をしないと。

沢田 そういう作業を誰かやらないといけないのですね。元のデータはあるわけですよね。

小笹 はい。

沢田 だけれどもデータ化された形で残っていない、と、おっしゃっている。

吉木 だから生データをもらったらいいですね。

小笹 ABCCの調査のデータは残っていますけれども、それが今、おっしゃったような用途に適切かどうかということが分からない。

守田 その生データを出していただくことはできないのですか?

小笹 それはできません。

守田 それはなぜなのですか。

沢田 国が原爆症認定裁判などで必要なときに、ABCCが調べたということでぱっと出てきますね。それは裁判のときは出てくるのですね。

寺本 個人のですか?個人のご本人の同意がある場合は・・・

沢田 裁判だからでるのですね。

寺本 はい。あくまで個人情報ですから、一般的に外に対して提供するような性格のものではないですね。

沢田 だからそれを調べようとすると、ここの研究員にならないとできないのですね。

寺本 ここの研究員であっても、個別のデータを解析の場合にそういう方法をとればやりますけれども、個人と特定できるような形では見てないです。

守田 放射線の影響というのは、個人のデータとは言えない側面があるのではないでしょうか。

寺本 だから研究する場合に、研究者が、だれだれさんのとか、そういう形では見ないように、しかし研究のために、個別の人ごとのデータが必要なときには名前を出すとかしています。

高橋 そういう方法があるわけですから

吉木 よろしくお願いします。

寺本 さきほども説明したとおり、オープンにしています。

吉木 ですから1年間に1回でも良いですから、定期的にこういうチャンスを設けていただきたいというのが私の要望です。たぶん、インゲさんもセバスチャンさんもそれに同意すると思います。

寺本 ドイツから来られるのですか?

吉木 来る可能性もあります。

沢田 僕の説明を、ちょっとこの図を使いますが、インゲさんがやったように、遠距離の被爆者を、今ここでは、初期放射線による被曝線量区分を使ってやってらっしゃるわけですね。それでここのデータを使えないものですから、広島大学の原医研のデータで調査されていますね。それは広島県民に限っているわけです。その中の被爆者だけを非被爆者と比較して調べているわけです。そのデータを使って、かつてABCCで調べた遠距離の被爆者がどれだけ降下物の影響を受けているのかということをやって、10ページのところに図があるのですけれども、(ここから英語のため省略)

 守田 ぜひお願いしたいと思うのですが、このきれいに作られている(放影研)のパンフレットの2ページのところをみますと、放射線の物質に対する透過力の図が書いてあります。今、福島のことで、多くの方が内部被曝のことを心配しているわけですけれども、この図だけみるとアルファ線は紙1枚で止まって、ベータ線は金属版1枚で止まって、あたかもガンマ線が一番強いかのように受け止められてしまいやすい。

   しかし実際には内部被曝しえるのはほとんどもうベータ線とアルファ線です。もちろんガンマ線からもしますけれども、逆に言うとアルファ線やベータ線ではほとんど外部被曝することがない。ベータ線はほんの少ししか入ってこない。でも内部被曝の場合は、このアルファ線とベータ線をもっとも気をつけなければならないわけです。

   そういう今の現実性から言うと、食料品の中から内部被曝する可能性が最も深刻なのに、その内部被曝のことがここには何も書かれていません。何も書かないでこれだけ(透過力だけ)書くと、あたかも、・・・もちろんそういう意図で書いていると考えているわけではありませんが、・・・ガンマ線が一番怖いように見えてしまう。

   しかし今、国民・住民が一番気にしなければいけないのは食べ物での内部被曝です。にもかかわらず、その危険性がこの図を見ていても出てこないのですね。危険性が非常に弱くみえます。やはりそうではなくて、放射線影響研究所が、私たちの実生活に関する影響という面での内部被曝のことを、ぜひもっと、国民・住民に対して説明していただきたい。このパンフレットをみたときにそこで非常に不安を感じるというか、これでは内部被曝の危険性が伝わらないのではないかと強く感じるのです。

寺本 放射線の実態影響は、線量に応じての話だと思いますので・・・。

沢田 内部被曝では、微粒子のサイズもすごく違うのですよね。原子の種類によっても体の中に取り込んだときに影響が違いますよね。だから内部被曝と外部被曝はぜんぜん違ったものなのです。複雑なのですね、内部被曝は。

寺本 その複雑さとか形態の違いは分かりますが・・・。

沢田 だから線量だけでひとくくりにすると、その辺が分からなくなるのです。ローカルにいろいろな影響を与えるわけです。内部被曝の場合は。だから線量ではなくて、線量では1キログラムあたり何ジュールということになるわけですよね。そうではない影響が、つまりDNAの損傷などを考えると、それは線量だけではなしに、どれだけ近距離から集中して被曝するのかが問題になるわけです。

 例えばベータ線で、微粒子からの距離によってどう変わるかを計算すると、近距離はものすごい、何十グレイとかになってしまうし、距離が変わればすごく変わりますよね。それらは線量では表せないです。

吉木 数値では表せないけれども、実際に起こっていることについて、われわれは非常に重要視しているわけです。それを数値化できないからあまり公言できないのだというのは逃げだと私は思うのです。われわれが一番心配しているのはそういうことなのです。これはただちには問題ないはずですよね。よく言われることですが。しかし将来どうなるのかということが分かってないところがあるし、内部被曝問題研のリサーチャーは一所懸命そこを研究しているのです。

寺本 福島の事故が起こってから、ホームページで情報提供を行うようにしました。汚染の度合いと被曝の形態、内部被曝を含めてですね、いろいろな形態で被曝があるのだと。その場合にどういうことに気をつけなければいけないのかと、それをかなり早くから情報提供をしました。

沢田 もうちょっと内部被曝の複雑さということがあるのです。

守田 線量について、臓器ごとで測っておられますよね。しかしベータ線だったら、臓器全体が被曝するのではなくて、それこそ1センチ球ぐらいのところに、全部、被曝したエネルギーがいってしまうわけですよね。それを臓器全体で考えると、それを薄めたようになってしまうと思うのです。しかし現実の被曝の実態というのは、ベータ線だったらそれが飛んでいくところにしか起こらないわけですから、せいぜい1センチ、あるいは数ミリの球状に被曝が生じるわけですよ。そしてご存知のように、臓器というのは、一箇所だけ集中的にやられても、それが臓器全体に作用していくわけです。

   ところがその線量の考え方というのは、臓器全体にどれぐらいあたったのかということが臓器への影響として考えられているから、臓器の部分に対して密集してあたる内部被曝の影響ということが十分に解かれていないのではないかと、そこが気になるわけです。

寺本 まあ、放影研だけで、すべてのことに情報を提供できるわけではありませんので。しかしうちはエビデンスに基づく研究成果を、完全中立性のもとに提供するということに徹してやっておりますので、あとはまあ、関連のあるところの情報をリンクさせていただくというかたちでやっております。

吉木 まだまだ分かってないことがいっぱいあるのだということを、十分にひとつ考慮していただきたいと思います。

沢田 これまでのDS866章には残留放射線について書かれていますよね。そこには気象的に流れていたりするから、すべてとは言えないとちゃんと科学者だからそういう可能性については書いています。でも国とかがDS86を利用するときには、そういうことを全部すっとばして、フォールアウト、雨でもたらされたもの、それは残っていて、台風でも流されて、広島の場合は火災の雨でもすごく流されているのです。一番、北東方向に大量の放射性の雨があったことが分かっているのです。池とかでたくさん蛙や魚があがってきたというたくさんの被爆者の証言があります。北西の方向に大量に降ったのです。

   しかしそこに残っているものを測定すると放射線は少ないのですよね。それで広島では己斐・高須地域に残っているということになってしまって、己斐・高須地域は強い放射性降雨があったところのはずれなのですよね。だけど火災の雨を受けなかったから残っている。また己斐・高須地域は台風の洪水の影響もあまり受けない地域なのです。川が入ってないものだから。

   89日に政府の命令で原爆であることを確かめるために仁科芳雄さんたちが土壌を採取して測定した最大の放射線であった場所が、今はもうないのですけれども、西大橋の東詰め(現在の観音本町)なのです。そこは己斐・高須地域の20倍ということが分かっているわけです。仁科資料を静間さんたちが測定したものがあって20倍なのです。当時は天満川と福島川が合流するその向かい側のところですが今は太田川が改修されてないですし、当時の大洪水のあとは強い放射線量は見つかっていないのです。ようするに枕崎台風で広島中、橋が流される大洪水になってしまったので、それが被爆者にとっては逆にラッキーだったのです。残留放射線の影響は急速に減りましたから。

   ということで、そういう結果だけで、降下物の影響だと言っているわけですが、しかし、被曝影響から求めると、それよりもはるかに大量の被曝をしているわけです。

   これは線量という概念よりも、外部被曝を受けたと同じ急性症状を発症させる影響と言ったほうがいいのかも分からないですね。生物学的な効果から調べるやつは。

   でもそれでいくと、6キロさきでも0.8シーベルトということになってくるわけです。ということでそういう効果は無視できないということがあるので、そこにいろいろな研究をした経過を説明しておきましたので、そういうことがあるということを知ってください。

   放射線影響研究所は、初期放射線の影響を研究するという方針がABCC以来、ずっと続いていますよね。そういう目的でここはスタートしているので、そこから変わるのはなかなか難しいし、Stramさんと水野さんも、そういうデータがあるのに、初期放射線の影響だけを引き出すことをすごく努力してやられています。それはそれなりの目的に沿ったものだと思いますけど、将来は、今の人類が抱えているような、内部被曝とかそういったことを明らかにする上では、そういう残留放射線の影響はすごく大事なのです。

   インゲさんは1980年代の論文で、もし放射線影響研究所がそういうことをちゃんとやってくれれば、人類には内部被曝とか低線量被曝の影響がもっといろいろと明らかになるであろうにと、論文で書いています。(インゲさんの英文を読む)

 

以上

 

 

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